社会保険労務士(社労士)は労働・社会保険の問題の専門家で、国家資格です。
別の職業から社労士を目指す場合、いきなりの起業はあまり現実的ではありませんから、どこかで社労士としての経験を積む必要があります。
そこで気になるのが、未経験でも転職が可能かどうか、そして就職・転職先にはどのような候補があるかという点。
未経験で社労士に転職する場合のポイントや、向いている人の特徴、年齢別の転職についてそれぞれ解説します。

社労士への転職は未経験でもできる?
社労士への転職は未経験でもできるのか、資格取得に関して気になる部分です。
未経験での転職について、以下の3点を解説します。
- 未経験でも転職は可能
- 経験者優遇・求人数は少ない
- 社労士補助者(社労士アシスタント)を目指すのもひとつの手
未経験でも転職は可能
実務が未経験でも、転職は可能です。
社労士資格とあわせて、これまでの勤務経験で得た得意分野があれば転職の武器になります。
また、社労士会が開いている実践的な実務経験を学ぶ講座に積極的に参加し、知識や経験を磨けば採用時にアピールできます。
経験者優遇・求人数は少ない
ただし、資格職で即戦力を求めている場合が多いので、採用は経験者優遇がほとんどです。
また、社労士の資格保有者が目指す就職・転職先のスタンダードである社労士事務所は、社労士の数に対し数が豊富であるとは言えません。
よって求人数自体が少ないため、未経験可となるとさらに選択肢が減るのが現状です。
社労士補助者(社労士アシスタント)を目指すのもひとつの手
最初から社労士としての採用がないのなら、未経験から実務経験を積むために、あえて社労士補助者(社労士アシスタント)を目指すのも転職のひとつの手です。
社労士補助者は、社労士の指揮下で補助する立場のため、社労士の資格がない人でも働くことができるポジションです。
あえて補助者から始めて経験を積み、次に経験者として転職先を探す、というルートも考えられます。
社労士の就職・転職先とは
次に、社労士の就職先や転職先にはどのようなものがあるのか、代表的な職場である社労士事務所をはじめ、以下の3つを順に見ていきます。
- 社労士事務所
- 企業の人事総務部
- 他士業の事務所
1. 社労士事務所
社労士資格保有者が働く場所としてまず思い浮かぶ、最もスタンダードな転職先が、社労士事務所や社労士法人です。
社労士としての経験を積むことはもちろん、将来社労士として独立したいと考えている人は、実務だけでなく社労士事務所の運営についても学ぶことができます。
社労士事務所は士業の中でも小規模の事務所が多く、5人未満が8割以上です。
主に企業を顧客として、社会保険・労務保険などの手続き代行、書類作成と行政機関への届出、就業規則などの作成、助成金の申請代行、人事・労務管理のコンサルティングなどさまざまな業務を行います。
就業規則や助成金と関連して、給与計算を行うこともあります。
2. 企業の人事総務部
企業の中で労務や年金事業を扱っている人事部や総務部も、転職先の一つです。
企業の従業員の社会保険や労務に関する手続きを行います。
就業規則や社内の規定の制定や見直し、人事評価制度の設計などを担うこともあり、外部の社労士との違いは、制度ができた後の運用面まで関わることができるという部分です。
特に規模の小さい企業では即戦力が求められ、未経験者を受け付けていない場合も多いですが、反対に規模が大きいところは自己流のやり方などのクセがない未経験者をあえて採用して育成する場合もあるようです。
近年では労務や保険関係の法改正が頻繁に行われているため、それに対応できる専門知識を持った人材が必要とされています。
社労士の資格を持つことで、労務関係のスペシャリストとして社内でのキャリアアップが見込めます。
3. 他士業の事務所
他には、弁護士や税理士など、他士業の事務所も候補の一つです。
例えば弁護士事務所であれば、労働法分野を専門とする事務所が社労士を採用することがあります。
税理士事務所であれば、税理士と社労士両方の資格保有者を在籍させることで、税務や労務に関する企業の課題にノンストップで対応できることをうたっている事務所があります。
法務に関しては弁護士、税務に関しては税理士、労務に関しては社労士、というように各分野に専門家がいますが、課題ごとにそれぞれ別の事務所へ依頼すれば、手間も増えますし連携も取れません。
複数の分野にまたがる問題は誰に相談すればいいのか迷うことも。
複数の士業の人材が連携することで、より複雑な問題に対処できるのが魅力です。
未経験で社労士への転職に成功する人の特徴
では未経験で社労士への転職に成功する人はどのような人でしょうか。
その特徴について、以下の4点をご紹介します。
- 強みを掛け合わせてアピールできる
- 実務について学ぶ
- 社労士補助者(社労士アシスタント)から入る
- 年齢が若い
強みを掛け合わせてアピールできる
社労士の資格以外に、自分の強みを掛け合わせてアピールできる人は転職に成功します。
例えば「ITに明るく、業務上使うソフトなどの扱いが得意である」とか、「営業で培ったコミュニケーション能力で、顧客と信頼関係を築くことができる」など、これまでの業務経験で得た得意分野・他の人にない強みがある人は、他の人材と差別化ができます。
他資格とのダブルライセンスも有効なアピール手段です。
実務について学ぶ
社労士としての経験がなくても、実務について学ぶ姿勢を積極的にアピールできる人は転職に成功します。
社労士になりたての人や新規開業した人向けに社労士会が開いている実務修習講座に参加すると、講義や演習を通して電子申請の基礎や雇用保険・健康保険、年金や各種助成金などについて学ぶことができます。
また、社労士会が企業や労働者向けに行う相談会などでアルバイトを募集することもあるので、活用することで実務経験を積む機会が得られます。
社労士補助者(社労士アシスタント)から入る
最初の項目でもご紹介しましたが、未経験で社労士として採用してくれる転職先がない場合、社労士補助者(社労士アシスタント)から入るという方法があります。
社労士補助者は社労士を補助する立場のため、資格がなくても働くことが可能です。
資格取得を目指す人や、資格取得後経験の浅い人を採用している場合があります。
業務内容は事務所によって異なりますが、手書き書類の作成、給与計算、行政機関への届出、労務相談のフォローなどです。
年齢が若い
これは社労士に限らずですが、年齢が若く20代であれば、未経験でも採用される確率が高くなります。
即戦力ではないものの、長く働いてくれる可能性がある、伸びしろがある、思考が柔軟であるなど、未経験で採用して育成しても職場にとってのメリットが大きいと判断されるからです。
社労士の合格者は30代以上が多く、2023年の試験の合格者のうち20代以下の割合は11.8%となっていて、20代で社労士資格を取得したということが、未経験者の中で差別化につながります。
社労士に向いている人の特徴とは?
ここでは、どんな人が社労士に向いているのか、その特徴を3点取り上げます。
- 雇用や労働、年金問ないに関心がある
- 数字に強い
- 細かい作業や地道な作業が苦にならない
雇用や労働、年金問題に関心がある
社労士は労務や年金などの専門家ですから、雇用や労働、年金問題に関心があるということが社労士に向いている人の特徴と言えます。
社会では働き手不足が続いており、高齢化も進んでいるため、社労士は制度面でも次々に変更がある分野を扱わなければなりません。
資格を取得して終わりではなく、興味を持って常に最新の情報を追い、知識をアップデートできる人が向いていると言えます。
数字に強い
数字に強い人も社労士に向いています。
月々の健康保険料の計算も社労士の仕事ですが、お給料の額に直接関わってくるので間違いのないように正確に算出することが求められます。
また、給与計算は社労士の独占業務ではありませんが、雇用保険料・社会保険料などのルールに詳しい社労士に依頼されることが多い業務で、こちらも当然正確性が求められます。
数字に強く、正確に早く大量に、たくさんの計算をこなせる人が向いています。
細かい作業や地道な作業が苦にならない
社労士は大量の事務作業をこなさなければならないため、細かい作業や地道な作業が苦にならない人も適性があると言えます。
先ほど触れた保険料や給与の計算は、間違いがないか従業員ごとに確認しながら丁寧に慎重に進める必要がありますし、毎月毎月繰り返す変わり映えのない作業でもあります。
こういった地道な作業をコツコツ進められる忍耐力のあるタイプが、社労士に向いている人材です。
社労士への転職。年代別のポイント
ここからは、社労士への転職に関して、年代別の傾向や注意することなどのポイントについて以下の3つの年代に分けて解説します。
- 20代の場合
- 30代の場合
- 40代の場合
20代の場合
未経験で転職に成功しやすい人の特徴の項目で「年齢が若い人が有利」とご紹介しましたが、20代の場合は未経験でもポテンシャル採用されやすい傾向にあります。
実務経験がないことに対して、柔軟性があるというプラスの見方がされることも。
社労士の平均年齢は56歳で、2023年(令和5年)の社労士試験で20代以下の合格者が11.8%しかいないことを考えると、20代の有資格者は貴重な人材です。
30代の場合
次に30代の場合は、20代と比べて年齢を重ねているので、すでに実務経験を積んできた経験者が増えてくる年代です。
特に30代後半であれば経験者優遇の壁がぶつかるのが現実ではあります。
実務経験がないハンデを埋めるためには、前職での経験やスキルの中で役に立つものを積極的にアピールしなければなりません。
自分ならではの強みを把握しましょう。
例えば長い勤務経験があって特定の業界の制度や事情に詳しければ、その業界を担当している社労士事務所からするとぜひ欲しい人材かもしれません。
なぜ社労士なのか、社労士として何がしたいのか、説得力のある強い志望理由を作ることも非常に重要です。
40代の場合
40代の場合は、30代よりさらにこれまでの経歴が見られることになるため、未経験での転職では若年層と比較するとどうしても選択肢が少なくなり、時間がかかってしまいます。
ここでも30代と同じく、過去の経験やスキルが重要なアピールポイントとなるので、それを必要としてくれる転職先を探しましょう。
社労士事務所は小規模がほとんどで事務所によって雰囲気も違うので、すぐに採用が決まらなくても諦めずに、自分に合った職場を探すことが大切です。
まとめ
この記事では、未経験でも社労士として転職できるかどうかを見てきました。
転職成功のコツや社労士に向いている人の特徴、年齢別のポイントなどをまとめると以下になります。
- 経験者優遇ではあるが、未経験でも転職は可能(特に20代)
- 就職先は、社労士事務所や企業の人事総務部門のほか、他士業の事務所も
- 社労士に向いているのは雇用・労働・年金問題に興味がある人、数字に強い人、細かく地道な作業が苦にならない人
- 30代以上は、特に社労士資格と自分の強みを掛け合わせてアピールすることが必要
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